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チンチョウゲ匂う通り
3月15日(水曜日)

紅い椿の花弁がふわりと落ちた。
黄色い花粉が沈黙の中で散り、
深い緑の葉の上に静かな波紋を描いた。

甘い匂いが漂ってくる。
いつの間にか咲き始めていたチンチョウゲ。
鼻腔に忍び込む艶やかで妖しい魔性の香り。
桜舞い散る春とは違うもうひとつの春、
別の次元に属する春の夜。

満月から降る月光の微粒子が、
梅の色合いを絶妙に変化させていく。
そこには死の気配さえ感じられた。
誰も知らぬ間に時間までもが葬られた。

美しさと怖さは同居する。
今まさに花咲こうとする水仙の蕾の中に、
あるいは人の知らない入り口があるのかもしれないと思った。

足元の方遠いところ、
劈く地鳴りが微かに響く。
中央線が青い闇を切り裂こうと金切り声を立てて進んだ。
遠くから見る電車の姿が、
電光を槍の穂先にして突き進む兵士のように見えもした。

どうやら帰る道を失ったようだ。
妙なところへ迷い込んでしまったんだろう。
けれどここも悪くない。
溶けて春の一部になるのだとしても。