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メンズデー
3月8日(水曜日)

水曜日はレディースデー。
じゃあメンズデーは?
といいたくなる。

何でないの、メンズデー?
女性客がたくさんきたら
それ目当てに男たちが群がるとでも思ってるのか?
何でないんだよ、メンズデー!
これは不当だ!
納得いかん!

考えてみてくれ。

毎週○曜日のメンズデーには男たちが集ってやってくる。
開館30分前からドアの前には男だけの行列ができ、
(今はもう並んだりしないんだよね)
開館と同時に黒だかりの山が走りこむ。

そこは押し合いへし合い殴り合い。
決死の席争奪戦に、
激しい怒号が飛び交い、
野生的で危険な歯が白く輝く。
一寸前まで頑なな沈黙を押し通してきた館内を、
一瞬にして硬い緊張感が支配する。

弱肉強食のルールだけに従って、
シートは強いものから順に獲得されてゆく。
通路さえ立ち覚悟の屈強な男たちで埋め尽くされる。
端から端まで空きひとつなく。
鼠一匹として入り込む隙はない。
然るべき時の流れを経た後に、
再び束の間の静寂が訪れる。

その下で殺された息が暗示的にうねり続ける。
幕が上がるその瞬間だけを夢み、
Tシャツになり、あるいは脱ぎ、
忍耐強く待つ怒れる肉体は、
やがて到来する噴火の予感に静かに小刻みに震える。

単純な男たちの純粋な期待を含んだスクリーンへの眼差し。
湿った熱い汗の臭い濃い空気はでたらめに無視をする。
綿密に計算され想定できるテストはすべてパスし、
過去最高性能と謳われた完璧な空調システムでさえ
男たちに快適を約束することは不可能だった。

誰かが唾を飲む音が響く…。
後ろの方でコーラを一気する音がした。

タイトルは今年最大級のアイドル主演で送る、
これ以上はないラブストーリー。

映画宣伝からエンディングまで男たちは気を抜かない。
いや、抜けない。
この世界においてはまばたきさえ忘れ去られてた。
流れる涙が一筋、
黒光りする頬を伝った。
熱のこもるわき汗が幾筋と、
筋肉の隆起を辿っては落ちた。
こぼれる嘆声と人によっちゃよだれ。
ドキドキとワクワクが渦まいたまま、
時の流れすら飲み込んでいった。

来る感動のクライマックス。
かつてこれほどまでの集中力を浴びたスクリーンは存在しないだろう。
言うまでもなく主役は自分。
男たちはひとり残らずみな映画の中へ。
穴があくほどの注視に耐え切れず、
最後の最後についにほんとに穴あく銀幕。
そこからほのかに煌く火種。

拍手拍手大喝采の中、
続々とステージに駆け上がる男たち。
広がろうと手を伸ばす炎が男たちのもみ上げを焦がす。
感極まった男たちと炎は激しい混沌へと昇華する。
しかし浅黒い群集から立ち上る涙と汗の湿気は、
無意識的にも炎のそれ以上の拡大を許さない。
怒涛のエンディングタイトルコール。
焼け落ちる銀幕。
嵐。

場内照明が回復すると。
男たちは誰からと言わず、
互いの肩を組み、
抱き合って吼えるようにないた。
帰りを促す放送が彼らの耳に届くことはない。

後日、オーナーはこれを振り返り、

やってよかった…
メンズデー…
ありがとう、男たちよ…

と目に涙を深く湛えながら語った。

わかんないかなー、メンズデー。
映画館ったらこれしかないでしょ?